2月の第1週、ロンドンの舞台には注目の新作が3本登場します。ノエル・カワード劇場ではシンシア・エリヴォ主演の『ドラキュラ』が開幕。ウェストエンドの劇場ではヒュー・ボネヴィル出演の『シャドウランズ』が幕を開け、ヤング・ヴィックでは『ブロークン・グラス』が上演開始となります。2月の“開幕ラッシュ”は年間でも屈指の注目度を誇り、この3作品は、現在のロンドン・プログラムが備える幅広さと意欲を力強く示すラインアップだと言えるでしょう。
『ドラキュラ』がノエル・カワード劇場で開幕しました。中心となる役を担うのはシンシア・エリヴォ。今年もっとも話題を呼んだ舞台発表のひとつとして、すでに大きな注目を集めてきたプロダクションです。エリヴォは本作で23もの役を演じ分けるという、第一級の技術的・芸術的チャレンジに挑みます。これにより本作は、ブラム・ストーカーの原作小説の“定番の舞台化”とは一線を画す上演となっています。
舞台・映像・音楽と幅広い分野で評価を築いてきたエリヴォのキャスティングは、例外的とも言える関心の高さを生みました。しかし、単なる“スター起用”に留まらず、ひとりの俳優が小説の登場人物すべてを引き受ける構造そのものが、作品の芸術的な必然性を支えています。ひとりの演者が小説世界全体を体現するという形式提案には、演劇史的にも確かな先例があります。本作がその系譜をどう発展させるのかは、批評の大きな論点のひとつになるでしょう。
ノエル・カワード劇場は、数々の重要作と印象的な名演を刻んできた、ウェストエンド屈指の名門劇場です。国際的な大物パフォーマー、大胆な形式、そしてクラシックなテキストを名門会場で掛け合わせる本作は、この春シーズンの開幕作のなかでも特に重要な一作と言えます。
初日の批評動向は、2月でもっとも注視される出来事のひとつになるはずです。また、オリヴィエ賞の対象期間が締め切られる直前の大型オープニングのひとつとして、本作がオリヴィエ賞レースでどの位置につくのかも大きな関心事となるでしょう。
『シャドウランズ』がウェストエンドで開幕し、C.S.ルイス役をヒュー・ボネヴィルが務めます。ウィリアム・ニコルソンによる本作は、作家ルイスがジョイ・デイヴィッドマンと晩年に結んだ結婚を描いた戯曲で、ロンドンの観客のもとに再び戻ってきました。信仰、愛、喪失の関係を、ルイス夫妻の具体的な体験を通して掘り下げるこの作品は、初演以来その時代を代表するウェストエンド作品のひとつとして位置づけられてきました。今回のリバイバルでは、舞台経験と高い知名度を兼ね備えたボネヴィルが中心役の要求にとりわけ適した俳優として迎えられています。
ボネヴィルの起用により、常連の観劇者だけでなく、主に映像作品で彼を知る層も劇場へと呼び込まれるでしょう。上演の評価は、彼の固有の表現力をどれだけ効果的に活かし、ニコルソンのテキストに奉仕できているかにかかっています。『シャドウランズ』は中心となる関係性が観客の真の感情移入を生み出してはじめて成立する戯曲であり、主役ふたりの組み合わせが、今回の上演でそれを達成できるかを決定づけます。
『ブロークン・グラス』がヤング・ヴィックで開幕しました。アーサー・ミラーによる本作は、ナチスの「水晶の夜(クリスタルナハト)」の報を聞いたことでヒステリー性麻痺を発症するブルックリン在住のユダヤ人女性を描き、ロンドンでも屈指の評価を受ける公的助成劇場のひとつで上演されます。重要なドラマ作品の創作・育成を続けてきたヤング・ヴィックの歴史を踏まえると、ミラーのシリアスで野心的な戯曲の上演先として、これ以上ない“本拠地”と言えるでしょう。
『ブロークン・グラス』はミラー作品のなかでも独特の位置を占めます。『セールスマンの死』や『るつぼ』ほど広く知られてはいないものの、アイデンティティ、抑圧、そして政治的出来事が私生活にどのように刻み込まれるのかという問いへの切り込みは、同様に手強いものがあります。ヤング・ヴィックが得意とする親密な演出は、心理状態を綿密に観察することから演劇的な力が立ち上がる本作に非常に適しています。
この3本の開幕は、オリヴィエ賞のカレンダー上、重要なタイミングに重なります。というのも、対象期間(エリジビリティ・ウィンドウ)が2月中旬に締め切られるためです。2月第1週に開幕する作品には、締め切り前にオリヴィエ賞の投票母体へ印象を残す機会が限られながらも確かに存在します。同じ週に話題性の高い3作品が揃って開幕することで、2月が賞レースの議論に与える影響は相当なものになるでしょう。
『レ・ミゼラブル』と『ヘイディズタウン』は、新作が観客を獲得していくなかでも上演を続けています。批評面・商業面の双方で長く支持されるその存在は、いくつかの作品が“基準”となり、新たな作品が否応なくそれに照らして測られていくことを改めて思い起こさせます。
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